甘ったるい幸福
近所にある小さな図書館が好きだ
ちょっぴり色褪せた本たちが、
数少なめに並んでいる。
お年寄りか子連れの母親くらいしかいない。
手芸コーナーはひとつの棚に収まっている。
このコーナーが私は好きだ。
手編み、ビーズ、リボン…
そしてそれらの上に乗る「かわいい」という文字。
タイトルを眺めているだけで、
甘ったるい現実離れした気持ちになれる。
背表紙に指をかけ、
引き出し表紙を見てみる。
私の感じる「かわいい」と一致するものはほとんどない。
けれど、その背表紙のタイトルの並びを見ているだけで、何事にも追われずに静かに小さな幸せを味わう光景が浮かんできて、少し頭が馬鹿になったような心地よさに包まれる。
永遠に続く春の昼下がりに、
焼きあがったばかりのタルトを、
色とりどりの花が咲く庭で、
秘密を共有する女の子たちとひそひそと味わう瞬間のようだ。